本研究室では、情報をコンピュータやネットワークと言った閉じた空間だけにとどまるものとしてではなく、我々が暮らしている現実の世界に物理的な影響を与えるものとして捉える、情報を応用した研究を幅広く行っています。
研究室で一番歴史が永い研究分野として知能化空間(Intelligent Space)というものがあります。知能化空間は言葉どおりに賢い空間を意味します。最近、大変な話題になっているアンビエント・インテリジェンス、IoTと通じる部分もありますが、知能化 空間は次のような特徴があります。「人間中心の空間である」。ロボットやコンピュータ以外の様々な「人工物が人間に物理的な支援を行う」。簡単に「我々が暮らしている生活空間に適用可能である」。たとえば、皆さんが仕事を終えて家に帰ったら、家という空間が皆さんの様子を見て、何がしたいか、何をしてほしいかなどをすばやく把握し、室内の温度を調節したり、音楽をかけたり、テレビをつけたり、風呂の用意をしたり、話しかけたりします。このような空間を実現するのが空間知能化研究の目標です。もちろんまだまだ実用化には程遠いレベルではありますが、必要とさ れる様々な要素技術を積み上げていくと近い未来に有用なものが得られるでしょう。この研究は要素技術の集大成とも言えるほど多様な研究テーマがあります。画像処理、認知心理学、音声認識、ロボティクス、ネットワーク、分散処理、インタフェース、タスクプランニング、データベー ス、マルチメディアなど学問のほぼ全分野が研究の対象になります。ちなみに知能化空間の愛称はiSpaceです。iはeye(目)、I(私)、intelligence(知能)、information(情報)、inspiration(霊感)、innovation(革新)、愛など、様々なことを意味します。
近年、研究室で一番力を入れている研究テーマとして医療・介護関連研究があります。医療現場で行われている医療行為を自動的に認識する医療プロセスモデリング研究、ICUの患者さんのお医者さんの会話を支援する研究,車椅子生活者の自立を支援するロボット研究、医療診断写真の自動判別システムの研究など様々な形で医療と介護に役立つ研究を行っています。特に、医療に関する研究はディープラーニング(DEEP LEARNING)、潜在的ディリクレ配分法(LDA)など、最新機械学習アルゴリズムを用いて研究開発を行っています。
知能ロボット分野も大変面白い研究テーマであります。知能ロボットと聞くと、R2D2、C3POなどの映画で 見たロボットを思い出すかもしれません。しかし、世の中、ロボットがブームになっているとはいえ、 実際にそのような賢いロボットは存在しません。それにはいろんな理由がありますが、もっとも大きい理由は人間の脳のような学習ができて、思考が可能な人工頭脳が開発されていないからです。しかし、人間の脳のような人工頭脳がなくても、既存の技術をうまく組み合わせれば(integration)、十分役に 立つロボットを実現させることは 可能です。また、ロボットが役に立つ機能をもたなくても、人間に、自分の意思で動き回るように見せる、生きている生物と思わせることは可能です(もちろんこれも難しいですが)。AIS研究室では役に立つ、サービスロボットとしての知能ロボットと、上でも言及した人間が真に感情移入できるペットロボットとしての知能ロボットに興味をもって研究を進めています。
ヒューマンインタフェースは非常に大事な研究テーマの一つです。ヒューマンインタフェースは人間とシステムの接点であり、人間にとってやさしいシステムを実現するためにはもっとも大事な部分です。ここでいうシステムとは、場合によってはコンピュータのプログラムでもあるが、それに限らず、家電製品、ゲーム、スマートフォンなど、ありとあらゆるものであります。この研究は特にマルチメディア技術と人間を理解することが重要です。視覚、聴覚、触覚、嗅覚な どの感覚を総合的に扱うマルチモーダルインタフェースを開発することで自然な感覚で使用可能なより自然なインタフェースが実現できるでしょう。もちろんこれは人間をよく理解した上で可能なものです。またこの研究をするために特に必要なものは自由な発想力、創作能力、繊細な感性、想像力、芸術性な どなどちょっと他の研究テーマとは異なるかもしれません。
音に関する研究も力を入れています。記号化された音声情報と異なって音というものは誰 にでも通じる面白いコミュニケーション手段ですね。言語が違っても文化が異なっても音の感じ方は一緒ですから。昨年行った研究は音を用いた人の誘導で した。音の位置を移動させて、また、音の内容を変えて人に提示することで人は深く考えなくても自然かつ直感的に誘導されることができました。音を用いてさりげなく人を操る研究はとても興味深いものです。
テレオペレーション(Tele-Operation)という言葉を聞いたことはありますか。言葉から推理すれば遠隔操作の意味ではないかと思う人も多くいるでしょう。確かに遠く離れたものを操作する技術もテレオペレーションといいま す。しかし、テレオペレーションの中にはもっと広い意味が込められています。それは操作するコマンドだけを遠くへ送るという意味はもちろん、その操作による反力、変化の様子を示す多重感覚の情報などを操作者側にまで帰すという意味ももっています。反力やいろんな情報を人間の感覚器官に帰すことを帰還(Feedback)というんです が、うまく情報を操作者にフィードバックすることで操作者は対象物と同じ空間、同じ次元、同じ世界にいなくてもすぐ隣にあって、自分の手で操っているように感じさせることが可能です。この技術を応用すると操作者は日本にいながらロボットだけエジプトに送って、視覚、聴覚、触覚などの感覚を操作者に返すともに操作者に意思どおりにロボッ トが動けば、まるで自分がエジプトに行っているように感じるでしょう。また、自分の目と手では見たり触ったり出来ない非常に小さい物体もロボットなどを用いてギャップを埋めることが出来るでしょう。この技術をエンタテインメントに応用した り、防犯に応用したりするのも本研究室の研究テーマになります。
本研究室では、人を中心に情報支援を行うロボットして、世界初の人間中心情報投影型ロボットUD(Ubiquitous Display、ユビキタスディスプレイ)を開発しました。人が見ている方向にその人が必要とされる情報を投影してくれるロボットで、人は特別な装置をもたなくても、掲示板など情報源を探して歩き回らなくても、UDがあれば人は必要な時に情報支援を受けられます。最近プロジェクションマッピングが話題になっていますが,UDを用いてショッピングモール内でプロジェクションマッピングを行う研究を最近進めています。
以上で研究室の研究内容および研究テーマの一部を挙げてみました。しかし、学生の研究テーマの選択は100%自由であると言っても過言ではありません。研究室の名前でわかるようにどんな研究でもこの研究室のテーマになり得ます。実は指導教員も学生の趣味や関心事をそのまま活かせた研究テーマがベストだと思っております。たとえば、株式投資に興味がある人なら自動予測で株価が上昇する銘柄を指示してくれるシステムの研究をテーマにしてもいいし、ネットゲームが好きな人 ならまったく新しいオンラインMUDゲームの開発をテーマにしてもいいし、ドラえもんが好きな人はドラえもんの未来の道具を実現するのをテーマにしてもいいでしょう。本研究室は自分の関心事や趣味を研究テーマにする人を積極的に支援します。